「強磁性超伝導体UCoGeのNMRによる研究」
石田 憲二 氏
Nov 29, 2012
北大理学部物理部門主催 物理学会北海道支部講演会・第180回エンレイソウの会共催
講演題目: 強磁性超伝導体UCoGeのNMRによる研究
講 師 : 石田 憲二 氏
京都大学大学院理学研究科・教授
日 時 : 平成24年11月29日(木) 16:30-17:30
場 所 : 北海道大学理学部5号館3階304号室
要 旨 :
強磁性と超伝導の共存の研究は1950年代より理論、実験の両面から研究されてきた。強磁性とは 電子スピンの成分が平均するとゼロとならず、ある方向に自発磁化をもっている状態である。 これに対し電気抵抗がゼロとなる超伝導では、2つの電子が通常合成スピンゼロの一重項対状態を作り、「完全反磁性」と呼ばれる内部の磁気モーメントがゼロの状態 を取る。一見して相反する現象であるが、両現象が異なる電子スピンや結晶サイトですみ分けている共存の例は報告されてきた。 それでは、同じ電子が強磁性と超伝導の両方の起源になりうるのであろうか? 電子は局在状態では超伝導にはなれないので、遍歴強磁性状態が超伝導になれるのかという問題であるが、同じ電子による強磁性と超伝導の共存は永らく存在するとは思われていなかった。 このような中、常識を覆す報告が2000年ケンブリッジ大のサクシーナ(S.S.Saxena)らによってなされた[1]。彼らは、50 Kで強磁性を示すウラン(U)化合物のUGe2が、1.3万気圧程度の加圧により強磁性状態のまま0.8 Kで超伝導に転移することを報告した。この物質では強磁性と超伝導は 同じUの5f電子に起因すると考えられ、超伝導研究者に大きな衝撃を与えた。現在までの精力的な研究により、4つのU化合物が強磁性超伝導体として知られている。なかでも今回取り上げるUCoGeでは常圧において強磁性状態で超伝導を示す物質であり、強磁性と超伝導の関係、強磁性超伝導状態の物性を調べるには適している。 本講演ではUCoGeに対し、我々の行ったコバルト(59Co)核の核磁気共鳴(NMR)、核四重極共鳴(NQR)の実験を紹介し、強磁性と超伝導がミクロに共存しどちらの現象もUの5f電子に起因すること[2]、また超伝導がUによる特異な強磁性ゆらぎによって引き起こされている可能性[3,4]を議論したい。
[1] S. S. Saxena et al. Nature (London) 406, 587 (2000).
[2] T. Ohta, et al. J. Phys. Soc. Jpn. 79, 023707 (2010).
[3] Y. Ihara, et al. Phys. Rev. Lett. 105, 206403 (2010).
[4] T. Hattori et al. Phys. Rev. Lett. 108, 066403 (2012).
世話人 井原 慶彦
(yihara@phys.sci.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院理学研究院物理部門