「高温超伝導ルネサンス−ノンドープ超伝導体の発見と新しい電子相図」
内藤 方夫 氏

Sep 20, 2019


日本物理学会北海道支部講演会

講演題目: 高温超伝導ルネサンス−ノンドープ超伝導体の発見と新しい電子相図
講 師 : 内藤 方夫 氏
      東京農工大学工学部物理システム工学科
日 時 : 令和元年9月20日 (金) 16:30~18:00
場 所 : 北海道大学工学部C棟C214室
共 催 : 第264回エンレイソウの会
要 旨 :
銅酸化物高温超伝導体の発見(1986年)から30年余が経過するが,その超伝導 発現機構に関して皆が納得するような理解は得られていない.そのような状況に あっても,「超伝導は反強磁性絶縁体母物質へのキャリアドーピングにより発現 する」というフレーズは多くの研究者の認めるところであった.例えば, BednorzとMullerにより最初に発見されたLa2-xBaxCuO4は,母物質のK2NiF4構造 (略称T構造)La2CuO4のLa3+をBa2+で置換した「正孔ドープ超伝導体」(Tc ~ 30 K)である.逆に,La2-xCexCuO4は,母物質のNd2CuO4構造(略称T’構造) La2CuO4のLa3+をCe4+で置換した「電子ドープ超伝導体」(Tc ~ 30 K)である.  現在,教科書的に信じられている高温超伝導体の電子相図(超伝導転移温度 (Tc)やネール温度(TN)などの特性温度のドープ量x依存性)からは,超伝導が正 孔・電子ドーピングいずれによっても発現し,おおよそ「正孔・電子対称性」が 成立しているように見てとれる.この相図に基づいて,「キャリアをドープして いない母物質は反強磁性モット絶縁体であり,適量のキャリアドーピングにより 超伝導が発現する」という「ドープされたモット絶縁体」描像が提唱された.そ して,強い電子相関描像から超伝導発現機構にアプローチする流れができあがっ ていった.  これに対し,我々のグループでは,2003年以降,T’構造を持ち,少なくとも 化学式上は母物質のままの「ノンドープ超伝導体」を次々と合成した.分子線エ ピタキシー(MBE)法をはじめとする高度な薄膜成長手法を物質合成に適用して得 られた成果である.ノンドープ超伝導体が薄膜の形で合成・発見されたのには, 「銅−酸素の化学結合が弱い」という銅酸化物超伝導体の物質科学的な特徴が大 きく関係している.  さらに2009-2010年になると,電子相関を顕わに扱える動的平均場理論(DMFT) と,局所密度近似(LDA)を組み合わせた第一原理計算によって,銅に酸素が八面 体六配位したT構造と,同じく平面四配位したT’構造の「配位の差による電子構 造の違い」を予測できるようになった.Rutgers大のグループは, T-La2-xSrxCuO4とT’-Nd2-xCexCuO4に対してDMFT計算を行い,母物質T-La2CuO4 とT’-Nd2CuO4の基底状態が異なることを示した.反強磁性秩序を起こさず常磁 性状態が維持されると仮定したとき,T構造の母物質T-La2CuO4は電荷移動型絶縁 体,T’構造の母物質Nd2CuO4は常磁性金属になるという結論である.T’構造の 母物質が超伝導性を示すという我々の実験結果と基本的には整合する.  これらの結果の解釈に関しては,未だ論争が続いているが,将来のさらなる研 究によってノンドープ状態での超伝導発現が確立すれば,高温超伝導の発現機構 と物理を理解する流れの一つのターニングポイントとなるであろう.本表題中の 「ルネサンス」は,銅酸化物超伝導研究における原点回帰と多様性の復興を意図 したものである.
世話人  迫田 將仁
(sakodam@eng.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門


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「ハイブリッド系による量子情報及びテクノロジー」
久保 結丸 氏

Sep 19, 2019


日本物理学会北海道支部講演会

講演題目: ハイブリッド系による量子情報及びテクノロジー
講 師 : 久保 結丸 氏
      OIST
日 時 : 令和元年9月19日 (木) 16:30~17:30
場 所 : 理学部5号館5-205
共 催 : 第265回エンレイソウの会
要 旨 :
量子情報科学の研究分野で蓄積された知見を技術応用しようという気運が世界中 で高まっている.量子による技術は総称して「量子テクノロジー」と呼ばれ,そ の最たる例が量子コンピュータである.Google,Intel,IBM, Microsoftといっ た主要なIT企業がここ数年の間に 量子テクノロジーへの支援を立て続けに開始 しており,量子テクノロジーは次世代社会の基幹技術として非常に注目を集めて いる. 本講演では,講演者が前所属機関(仏サクレー研究所)において実証した幾つか の実験を紹介する.まず,超伝導量子回路とダイヤモンド中の窒素ー空孔(NV) 中心の電子スピンをコヒーレントに結合させることに成功し,スピンと超伝導量 子回路の「ハイブリッド量子系」を実現した [1,2]. 次に,超伝導量子回路の技術をスピン共鳴分光へと応用し,かつてない検出感度 を持つESR分光器を実証した [3].また,緩和時間が長い固体中の電子スピンに おいては観測が極めて困難と考えられていた自然放出現象を観測することにも成 功した [4]. 最後に,現所属機関における研究プロジェクト(スピンを用いたマイクロ波ー光 のコヒーレント変換)の概観及び進捗状況 [5]に関しても簡単に紹介する. [1] Kubo et al., Phys. Rev. Lett. 105, 140502 (2010). [2] Kubo et al., Phys. Rev. Lett. 107, 220501 (2011). [3] Bienfait et al., Nature Nanotech. 11, 253 (2016). [4] Bienfait et al., Nature 531, 74 (2016).
世話人  井原 慶彦
(yihara@phys.sci.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院理学研究院物理学部門


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「複雑ネットワークの統計物理―相転移と臨界現象の変わった話」
長谷川 雄央 氏

Sep 06, 2019


日本物理学会北海道支部講演会

講演題目: 複雑ネットワークの統計物理―相転移と臨界現象の変わった話
講 師 : 長谷川 雄央 氏
      茨城大学理学部数学情報数理領域
日 時 : 令和元年9月6日 (金) 16:30~18:00
場 所 : 北海道大学理学部2号館2-211室
共 催 : 第263回エンレイソウの会
要 旨 :
ネットワークとは頂点と頂点間を結ぶ辺の集合であり、つながり・関係を表現す るのに使うことができる。WWW、友人関係、食物連鎖等、我々の周りには巨大で 複雑なネットワークが様々ある。そのような複雑ネットワークに関する研究は 1990年代末に始まり、現実ネットワークの多くは「次数分布がべき則に従う」ス ケールフリー性や「ネットワークの平均距離が頂点の対数オーダーになる」スモ ー ルワールド性を持つことが明らかになった。現実ネットワークのそういった特徴 を再現するネットワークの生成モデルも数多く提案されている。 複雑なネットワークの上に配置された統計物理モデル(パーコレーション、コン タクトプロセス、イジングモデル等)について調べる研究も数多くある。ネット ワーク上に配置された統計物理モデルは相転移を示す。対称性の高いユークリッ ド格子と異なり、複雑ネットワークはランダムで非一様なつながりをしており、 スケールフリー性やスモールワールド性などの特徴を持つ。そのため、複雑ネッ トワーク上で起こる相転移もまた、標準的なユークリッド格子系ではみられない ような、変わった性質を示す。 本講演では、相転移を示す最も単純な統計物理モデルであるパーコレーションを 扱い、複雑なネットワーク構造が引き起こす変わった相転移を紹介する。前半は、 臨界点の単一性についてとりあげる。ユークリッド格子上のボンドパーコレーシ ョ ンは一つの臨界「点」で相転移を起こすが、複雑ネットワークでは臨界状態が有 限領域にわたる臨界「相」が現れる。臨界相の特徴を、臨界相の出現条件につい ての考察とともに、紹介する。後半は、パーコレーションのユニバーサリティに ついてとりあげる。ユークリッド格子上のサイトパーコレーションは、ボンドパ ー コレーションと同じユニバーサリティクラスに属し、定性的に同じ振舞いをする。 しかし、ネットワークによっては、ユニバーサリティが破れる。階層的なネット ワークを例に紹介する。
世話人  根本 幸児
(nemoto@statphys.sci.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院理学研究院物理学部門


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「Influence of multiplicative and additive noise on stationary dissipative solitons」
Helmut R. Brand 氏

Sep 05, 2019


日本物理学会北海道支部講演会

講演題目: Influence of multiplicative and additive noise on stationary dissipative solitons
講 師 : Helmut R. Brand 氏
      Department of Physics, University of Bayreuth, Germany
日 時 : 令和元年9月5日 (木) 11:00~12:00
場 所 : 北海道大学電子科学研究所1階セミナー室1-3
共 催 : 第262回エンレイソウの会
要 旨 :
We give an overview of the influence of noise on stationary spatially localized patterns. We recall first that a small amount of additive noise can induce explosions for dissipative solitons in the vicinity of the transition sequence from stationary dissipative solitons to exploding dissipative solitons [1]. We will also comment briefly on the effect of large noise in connection with dissipative solitons [2]. In addition, we have shown that purely multiplicative noise can lead to the collapse of dissipative solitons [3]. Stimulated by the results on additive and multiplicative noise we have studied very recently the simultaneous presence of multiplicative and additive noise [4]. Depending on the ratio between the strength of additive and multiplicative noise we find a number of distinctly different types of behavior including explosions, collapse, filling-in and spatio-temporal disorder as well as intermittent behavior of all types listed. [1] C. Cartes, O. Descalzi, H.R. Brand, Phys. Rev. E 85, 015205 (2012). [2] O. Descalzi, C. Cartes, H.R. Brand, Phys. Rev. E 91, 020901 (2015). [3] O. Descalzi, C. Cartes, H.R. Brand, Phys. Rev. E 94, 012219 (2016). [4] C. Cartes, O. Descalzi, H.R. Brand, Phys. Rev. E 100, 012214 (2019).
世話人  北 孝文
(kita@phys.sci.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門


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