「鉄ヒ素超伝導体Ba(Fe_1-x_Co_x_)_2_As_2_における多極子揺らぎによる量子臨界性」
根本 祐一 氏
Aug 03, 2023
日本物理学会北海道支部講演会
講演題目: 鉄ヒ素超伝導体Ba(Fe_1-x_Co_x_)_2_As_2_における多極子揺らぎによる量子臨界性
講 師 : 根本 祐一氏
新潟大院自然
日 時 : 2023年8月3日(木)17:00-18:00
場 所 : 北海道大学理学部2号館 2-211(ハイブリッド)
要 旨 :
BaFe2As2にCoで電子ドープすると,Ts = 140 K付近の構造相転移と反強磁性転移が抑制されていき,Co濃度x = 0.03〜0.12で超伝導を示す[1]。構造相転移の量子臨界点(QCP) x = 0.06付近で最大の超伝導転移温度Tsc = 25 Kをもつ。構造相転移は,フェルミ準位近傍のFe2+ (dy’z, dzx’)の2重縮退軌道がもつ四極子の強的秩序によって発生すると考えられる。自然にQCPでの四極子揺らぎと超伝導との関連にも興味が湧く。これまで,電気四極子を直接観測できる超音波実験が精力的に行われた[2-4]。四極子Ox’2-y’2による構造相転移を示すアンダードープx = 0.036では,Tsに向かって弾性定数C66の巨大ソフト化と,超音波吸収係数a66の発散的増大が観測される。他方,構造相転移を示さず超伝導のみを示すオーバードープx = 0.071では,C66のソフト化が超伝導で折れ曲がって停止するのに対し,alpha66はTscに向かって発散的増大を示した。これを説明するため,2電子からなる電気十六極子Hzaと回転wxyとの結合モデルを導き,超伝導と同時に強十六極子秩序が起きていることを報告した[5]。さらに,QCP近傍のx = 0.06での超音波実験を詳細に行った結果,alpha66はx = 0.071と同様にTscに向かって発散的な増大を示した。得られた緩和時間tの臨界指数z nuは,x = 0.071での平均場的なz nu =1に比べて顕著に大きいz nu = 3で50 K以下の温度依存性を再現した[6]。QCP近傍での臨界指数の特異性は,電子系が担う電気四極子と電気十六極子の量子揺らぎが本質的である可能性を浮立たせている[7]。研究の蓄積がある歪みフォノンと電子系との相互作用に加え,回転フォノンを無視できない量子効果の検証が必要となっており,対称・非対称力学を実証するのに有効な超音波実験による取り組みを進めている。
[1] S. Nandi et al., Phys. Rev. Lett. 104, 057006 (2010).
[2] R. M. Fernandes et al., Phys. Rev. Lett. 105, 157003 (2010).
[3] T. Goto et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, 073702 (2011).
[4] M. Yoshizawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81, 024604 (2012).
[5] R. Kurihara et al., J. Phys. Soc. Jpn. 86, 064706 (2017).
[6] H. Sato et al., JPS Conference Proceedings 30, 011052 (2020).
[7] A. V. Maharaj et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 114, 13430 (2017).
世話人: 柳澤達也
(tatsuya@cris.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院理学研究院