「銅酸化物超伝導体電子状態への新しいアプローチと超伝導機構」
上村 洸 氏

Jun 11, 2003


講演題目: 高温超伝導は過剰ドーピングによって、どのように消えるのか?
講 師 : 上村 洸 氏
     (東京理科大学特別顧問・理学部嘱託教授)
日 時 : 平成15年6月11日 (水) 16:00-
場 所 : 北海道大学大学院工学研究科 物理工学系大会議室 A 1-17(A棟1階)

要 旨 :
  1986年にBednorz・Mueller両博士が、ランタン系銅酸化物で、転移温度40Kの高温超伝導を発見して以来、超伝導機構について数多くの理論的モデルが提唱されてきたが、未だにはっきりとした機構解明に至っていない。その大きな理由は、銅酸化物では、強い電子相関、反強磁性局所秩序、局所格子歪み、強い電子格子相互作用、不純物或いは酸素欠陥の導入によるキャリア生成などの要素が複雑に絡み合って、固体物理学におけるすべての分野を網羅した洞察と理論的枠組みの構築が必要になるからである。そのため、これまでの多くのモデルでは出発点の電子状態をCuO2面内に限定し、パラメターを導入して実験に合わせることによって、理論を発展させてきた。その結果、銅酸化物の構成要素であるCuO6八面体やCuO5ピラミッドの違いによる超伝導現象の差異を予言することは不可能となる。
  本講演では、まずパラメータを用いない第一原理計算で、銅酸化物の電子・スピン状態がどこまで明らかになったかについて話をしたい。この計算では、まわりの格子変形を考慮し、反強磁性局所秩序を構成する局在スピンの原因である電子相関の効果をできるだけ正しく取り入れるために、銅酸化物中の1個のCuO6八面体やCuO5ピラミッドの多電子状態(多重項という)を、第一原理変分計算でできるだけ正確に解くことから出発する。次にCuO6八面体間、あるいはCuO5ピラミッド間の跳び移り相互作用を導入すると、キャリアーは超交換相互作用による反強磁性秩序を壊さないように2種類の軌道(Fig.1のa1g*と b1g軌道)を選択して、反強磁性局所秩序の領域を跳び移り相互作用によりを跳びまわり、その結果、キャリアースピンが局在スピンとスピン1重項的に結合した1A1多重項とフント結合によってスピン3重項的に結合した3B1多重項が交互に現れる金属状態ができることになる。このモデルは、「上村・諏訪モデル(K-Sモデル)」とよばれる。講演の後半では、K-Sモデルに基づいて計算した多電子バンド、フェルミ面の形状、電子エントロピーや電気抵抗・ホール効果、磁化率のホール濃度依存性などの結果を紹介し、伊土・小田グループの実験結果を含む最近の実験結果と比較検討した結果について話をする。最後に、K-Sモデルに基づいて計算したランタン系銅酸化物の超伝導転移温度のホール濃度依存性並びに大きなアイソトープ効果について議論をしたい。

世話人  明楽 浩史
(akera@eng.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院工学研究科

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