「フラストレートした格子を持つIrカルコゲナイドの電子構造」
溝川 貴司 氏
Sep 02, 2015
日本物理学会北海道支部講演会
講演題目: フラストレートした格子を持つIrカルコゲナイドの電子構造
講 師 : 溝川 貴司 博士
早稲田大学 先進理工学系研究科 凝縮系物理学部門 教授
日 時 : 平成27年9月2日 (水) 16:00-17:30
場 所 : 北海道大学理学部3号館202室
要 旨 :
Irパイロクロア格子を持つCuIr2S4 が230K付近という比較的高温で金属絶縁体転移を示すことが発見され [1]、フラストレートしたパイロクロア格子上でのIr3+/Ir4+の電荷秩序の安定性の問題が提起された。Ir4+の電子配置はIr 5d t2g軌道に1個のホールを持つことから、このIr 5d t2gホールの軌道秩序化に伴いIr4+-Ir4+の2量体が形成されるモデルによって、フラストレーションの効果を除きながらIr3+/Ir4+の電荷秩序を伴う絶縁相を安定化することが可能である[2]。一方、 Irの三角格子を持つIrTe2も270K付近に電気抵抗の異常を伴う構造相転移を示し、CuIr2S4 と同様な軌道秩序とIr-Irの2量体を持つ可能性が指摘された[3,4]。さらに、IrTe2はPtドープによって超伝導を示すことが発見されて[4]、フラストレートした格子上でのIr 5d 電子の振る舞いが活発に研究されている。また、Ir 5d 電子はt2g縮退縮退を持つと同時に大きなスピン軌道相互作用を持つことから、新しいタイプのトポロジカルな量子状態が発現することが期待されて注目を集めている。 本セミナーでは、三角格子を持つIr1-xPtxTe2にフォーカスし、(1)IrTe2の構造相転移に伴う劇的なバンド構造・フェルミ面の変化とドメイン構造の形成[5]、(2)超伝導相での複雑な多バンド構造とスピン軌道相互作用の効果[6,7]、(3)IrTe2の絶縁体相における特異な表面状態[8]、の3点について角度分解光電子分光の結果を中心に議論する。また、電子状態に関する実験結果に基づいて、バンド・ヤンテラー効果やスピン軌道相互作用とIr1-xPtxTe2の興味深い物性との関係を議論する。 本研究は、永田研究室(室蘭工大)、野原研究室(岡山大)、藤森研究室(東大理)、谷口研究室(広大放射光)、辛研究室(東大物性研)、組頭研究室(KEK-PF)、Saini研究室(ローマ大)の方々との共同研究であり、HiSOR、PF、Elettraの各放射光施設およびLASORの支援を受けております。 [1] S. Nagata et al, Physica B 194-196, 1077 (1994). [2] D. I. Khomskii and T. Mizokawa, Phys. Rev. Lett. 94, 156402 (2005). [3] N. Matsumoto et al, J. Low Temp. Phys. 117, 1129 (1999). [4] S. Pyon, K. Kudo, and M. Nohara, J. Phys. Soc. Jpn. 81, 053701 (2012). [5] D. Ootsuki et al., Phys. Rev. B 86, 014519 (2012). [6] D. Ootsuki et al., Phys. Rev. B 89, 104506 (2014). [7] D. Ootsuki et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 033704 (2014). [8] D. Ootsuki et al., J. Phys. Soc. Jpn., 82, 093704 (2013).
世話人 小田研
(moda@sci.hokudai.ac.jp)
北海道大学理学部物理学科 (電話011-706-3484)
この記事への返信など
返信の受け入れ状態:
※ひとつまえにコメントされた方のお名前が残っている場合があります。ご注意ください。