「動的に非対称な液体の混合に駆動されるゲル動力学:出自の異なる2つの拡散方程式の結合」
田中 良巳 氏

May 16, 2023


日本物理学会北海道支部講演会

講演題目: 動的に非対称な液体の混合に駆動されるゲル動力学:出自の異なる2つの拡散方程式の結合
講 師 : 田中 良巳 氏
      横浜国立大学
日 時 : 2023年3月6日(月) 15:00-17:00
場 所 : 北海道大学 工学部 物理工学系大会議室 A 1-17室
要 旨 :
下記文献の内容およびその後の研究の展開について話す。隠れた主題は,一見似た顔を持つが出自の異なる二者の遭遇」だと思っている。ゴムやゲルが溶媒を吸収するときの体積変化のダイナミクスは,1940年代から研究されてきたが,1970年代の田中豊一らの一連の研究により,ゲルの膨潤(或いは収縮)を特徴づける拡散定数は,溶媒の自己拡散定数にくらべ2桁小さく網目の弾性率と溶媒透過抵抗の比として決まる共同拡散定数と呼ばれる量であることが広く受け入れられた。ここでは多成分溶媒中でのゲルの動力学を扱う。ゲルを,例えば水とエチレングリコール(以降EG)のような完全相溶でかつ粘度が大きく異なる2種溶媒の間で溶媒置換した時,ゲルの体積が一時的な極大あるいは極小をとった後,平衡値に緩和する。水-EG間で溶媒置換されるアクリルアミドゲルにおける実験は,置換開始から体積の極値までの時間は,(上述の共同拡散ではなく)溶媒の相互拡散によって決まることを示す。また,モデル計算―2液混合溶媒中で動くゲル網目の力学的釣り合いを多成分の連続体力学で採用される一般的な仮定とオンサーガ―原理で定式化の結果は,溶媒濃度に関する拡散方程式(通常の分子拡散)およびゲル網目の変位場についての拡散方程式(上述の共同拡散;網目の変形エネルギーの緩和と記述)という物理的起源の異なる2つの拡散方程式の間の自然な共役の形を示してくれ,上述の実験結果を説明する。“異なる二者の遭遇”にはもう一つの意味もある。液体の拡散混合を記述する自然な座標系はEuler座標であるが,弾性体であるゲル網目の変形や歪はLagrange座標で書くのが適切である。多成分溶媒中でのゲルの動力学の定式化には,この二つの座標系の使い分けが鍵となる(厳密にするにせよ近似的にするにせよ)。発表では,このあたりの事情についても講演者の理解の及ぶ範囲で言及したい。

[1] Y. Tanaka, M. Seii, J. Sui, M. Doi, J. Chem. Phys. 152, 184901 (2020).

世話人: 折原 宏

(北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門)

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