「表面原子層超伝導体:スピン分裂と動的なスピン運動量ロッキング効果」
内橋 隆 氏
Feb 20, 2023
日本物理学会北海道支部講演会
講演題目: 表面原子層超伝導体:スピン分裂と動的なスピン運動量ロッキング効果
講 師 : 内橋 隆 氏
物質・材料研究機構
日 時 : 2023年2月20日(月) 16:00-17:00
場 所 : ZOOM(オンライン)
要 旨 :
近年研究が活発化している2次元超伝導体の中でも、半導体表面上に作製された原子層結晶は走査トンネル顕微鏡や角度分解光電子分光などの表面科学で発達した実験手法の適応が可能であるという、ユニークな特徴をもつ。われわれは2011年に表面原子層結晶の超伝導転移を初めて直接に観測して以来、この系を表面科学および超伝導物性の観点から研究を行ってきた。本講演ではこれまでの研究を概観するとともに、最近発見した特異なスピン分裂構造と動的なスピン運動量ロッキング効果による臨界磁場増大現象について解説する。
世話人: 武貞 正樹
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
「潮汐破壊現象からの高エネルギーニュートリノ放射」
早崎 公威 氏
Feb 16, 2023
日本物理学会北海道支部講演会
講演題目: 潮汐破壊現象からの高エネルギーニュートリノ放射
講 師 : 早崎 公威 氏
Chungbuk National University, Korea
日 時 : 2023年2月20日(月) 16:00-17:00
場 所 : 北海道大学 工学部 アカデミックラウンジ3
要 旨 :
ビッグバン理論によると、ニュートリノは宇宙で光子に次いで 2 番目に数の多い素粒子である。物質との相互作用が非常に弱く検出が難しいためゴースト粒子とも呼ばれている。しかし、この性質によってニュートリノは天体現象(太陽や超新星爆発)に関する物理情報を星間物質にほとんど邪魔されることなく運ぶため、その現象をより深く理解することができるという利点がある。 特に高エネルギーニュートリノは相対論的なエネルギーまで加速された宇宙線が周囲の物質または光子と相互作用することによって生成されることが知られている。最近IceCube(※)で検出された高エネルギーニュートリノと潮汐破壊現象(TDE)との間に一定の関連があることが分かった。TDEとは星が超大質量ブラックホール(SMBH) に近づくとその潮汐力によって星が破壊され、その残骸がSMBHに降着することによって数ヶ月間続くフレアを示す現象のことである。このためTDEは非活動銀河の中心にある超大質量ブラック ホール (SMBH) の検出に利用されている。さらに、近年の精力的な多波長電磁波観測によってTDE の多様性が明らかになってきた。 特に今回関連が指摘されたAT2019dsg、AT2019fdr及びAT2019aalc は赤外線、光学、紫外線で明るく輝く一方で電波放射は弱いというTDEの中でも珍しい特徴を示している。 この特徴がIceCube によって検出されたサブ PeV スケールのニュートリノとの時間的および空間的な関連性を強めており、TDE からの高エネルギーニュートリノ放出機構を研究する強い動機を与えている。今回の講演では、TDEとIceCubeニュートリノとの関連について現在ある問題を整理して共有することを目的とする。
【※】100GeV以上の高エネルギーニュートリノの検出を目的として2011年に南極に建設されたニュートリノ望遠鏡
[1] K. Hayasaki, Nature Astronomy, Volume 5, p. 436-437 (2021)
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2021NatAs...5..436H/abstract
[2] S. van Velzen, R. Stein, M. Gilfanov, M. Kowalski, K. Hayasaki, et al. (2023)
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2021arXiv211109391V/abstract
世話人: 丹田 聡
(北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門)
「エキゾチック超伝導体における非相反・非対角応答」
柳瀬 陽一 氏
Feb 14, 2023
日本物理学会北海道支部講演会
講演題目: エキゾチック超伝導体における非相反・非対角応答
講 師 : 柳瀬 陽一 氏
京都大学大学院理学研究科
日 時 : 2023年2月14日(火) 15:00-16:00
場 所 : 北海道大学理学部2-402
要 旨 :
本講演では、超伝導体におけるさまざまな非相反応答・非対角応答の理論的枠組みと計算結果を示す。特に、空間反転対称性が破れた物質における超伝導ダイオード効果、非線形超伝導光学応答、非相反マイスナー効果、超伝導圧電効果について議論する。私たちは、超伝導ダイオード効果 (SDE)の最近の発見 [1]に刺激されて、SDE を引き起こす内因的メカニズムを提案した [2]。 SDE は臨界電流に非相反性が現れる現象である。 内因的SDE がランダウ臨界運動量の非相反性によって引き起こされることを示し、ヘリカル超伝導状態でのクロスオーバー現象が SDE によって証明できることを提案する。 次に、空間反転対称性を破る超伝導では、巨大な光電流生成や第二次高調波生成などの非相反光学応答が起こることを示す [3]。 応答は低エネルギーで発散的であり、非相反超流動密度と、ベリー曲率微分に起因する。 これらの指標は、非線形光学における超伝導体の性能を定量化する。 超流動密度への非相反補正は、非相反マイスナー効果をも引き起こす [4]。 また、時間反転対称性がある非中心対称超伝導体における非相反光学応答の微視的条件を示し、 それがスピン三重項クーパー対に由来することを示す [5]。上記の非相反応答や超伝導圧電効果を超伝導体UTe2の微視的模型に適用した結果を紹介し [6]、エキゾチック超伝導体の秩序変数を同定する道筋についても議論したい。
[1] F. Ando, Y. Miyasaka, T. Li, J. Ishizuka, T. Arakawa, Y. Shiota, T. Moriyama, Y. Yanase, and T. Ono, Nature 584, 373 (2020).
[2] Akito Daido, Yuhei Ikeda, Youichi Yanase, Phys. Rev. Lett. 128, 037001 (2022).
[3] Hikaru Watanabe, Akito Daido, Youichi Yanase, Phys. Rev. B 105, 024308 (2022).
[4] Hikaru Watanabe, Akito Daido, Youichi Yanase, Phys. Rev. B 105, L100504 (2022).
[5] Hiroto Tanaka, Hikaru Watanabe, Youichi Yanase, arXiv:2205.14445.
[6] Michiya Chazono, Shota Kanasugi, Taisei Kitamura, Youichi Yanase, arXiv:2212.13102.
世話人: 北 孝文
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
2022年(1月〜12月)の北海道支部講演会一覧
Dec 31, 2022
日本物理学会北海道支部講演会
9.
日時: 2022年11月15日(火) 13:00-15:00
場所: 北海道大学 工学部 物理工学系大会議室 A 1-17室
共催: 応用物理学部門学術講演会、第281回エンレイソウの会
講演題目: Dynamical Mass Growth of Fermion with Bare Mass in Two Dimensions
講師: 松山 豊樹 氏 (奈良教育大学)
要旨:We study dynamical mass generation of a fermion with and without a bare mass by coupling with a massive vector field in two-dimensional space-time. To estimate a non-perturbative effect on the fermion mass, we employ the Schwinger-Dyson equations in the lowest-ladder approximation, which are solved by an approximated analytical method and also by a numerical method. We define a "purely" dynamical mass as a remnant after subtracting the bare mass from a total dynamical mass. We clarify dependence of the purely dynamical mass on the bare mass of the fermion in various region of a coupling constant. Especially we find that the purely dynamical masses growing from the different bare masses coincide with each other at a specific value of the coupling constant where a kind of a "duality" relation on the bare masses is satisfied.
世話人: 丹田 聡
(北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門)
8.
日時:11月4日(金)16:30-18:00
場所:北海道大学理学部5号館5-205
共催:第282回エンレイソウの会、物理コロキウム
題目:Hidden Charge Order and Magnetic States in Square-Lattice Sr3Fe2O7
講師:Darren Peets 氏 (Technische Universitat Dresden)
概要:Since the discovery of charge disproportionation in the FeO2 square-lattice compound Sr3Fe2O7 by Mössbauer spectroscopy more than fifty years ago, the spatial ordering pattern of the disproportionated charges has remained "hidden" to conventional diffraction probes, despite numerous x-ray and neutron scattering studies. We have used neutron Larmor diffraction and Fe K-edge resonant x-ray scattering to demonstrate checkerboard charge order in the FeO2 planes that vanishes at a sharp second-order phase transition upon heating above 332 K. Stacking disorder of the checkerboard pattern due to frustrated interlayer interactions broadens the corresponding superstructure reflections and greatly reduces their amplitude, thus explaining the difficulty to detect them by conventional probes. I will discuss implications of these findings for research on "hidden order" in other materials and also discuss some novel multiple-q magnetic structures we have identified in Sr3Fe2O7.
世話人:井原慶彦
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
7.
日時:9月28日(水)16:30-18:00
場所:北海道大学工学部B32講義室
共催:応物学会北海道支部講演会、第280回エンレイソウの会
題目:モアレ二次元物質の物理
講師:越野幹人 氏(大阪大学理学部)
概要:二次元物質同士の角度をずらして非整合に重ねたモアレ二次元物質では、格子構造の干渉によって生じるモアレ模様が電子やフォノンの性質を一変させる。その顕著な例の一つがツイスト二層グラフェンである。特に魔法角と呼ばれる特別な積層角における超伝導の発見は、物質科学における一つのブレイクスルーとなった。この講演では、近年注目されているツイスト二層グラフェンを中心に、モアレ積層二次元物質系の物性研究の現状を解説する。超伝導を始めとする最近の実験を概観するとともに、モアレ電子系を記述する連続体理論を紹介する。グラフェンを超えた様々なモアレ二次元物質、準周期系、モアレフォノンに関する最近の研究についても紹介する。
世話人:鈴浦秀勝(北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門)
6.
日時:9月26日16:30-18:00
場所:理学部2号館 2-409
共催:第279回エンレイソウの会、物理コロキウム
講演題目:A bound on energy dependence of chaos
講師:橋本幸士 氏 (京都大学大学院理学研究科)
要旨:We conjecture an upper bound on the energy dependence of the Lyapunov exponent for any classical/quantum Hamiltonian mechanics and quantum field theories. The conjecture states that the Lyapunov exponent as a function of the total energy grows no faster than linearly in the energy, in the high energy limit, under plausible physical conditions on the Hamiltonian. To the best of our knowledge this chaos energy bound is satisfied by any classically chaotic Hamiltonian system. We provide arguments supporting the conjecture for generic classically chaotic billiards and multi-particle systems. The existence of the chaos energy bound may put a fundamentalconstraint on physical systems and the universe.
世話人: 末廣一彦(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
5.
日時:9月20日(火)16:30-18:00
場所:理学部5号館 5-201
共催:第278回エンレイソウの会、物理コロキウム
講演題目:ダイヤモンドを用いた熱駆動メーザー
講師:久保結丸 氏(沖縄科学技術大学院大学、サイエンステクノロジーアソシエイツ)
要旨:量子コンピュータの研究開発競争が世界中で繰り広げられているが,この急速な 進歩の背景には極低温におけるマイクロ波量子情報技術の進展がある.とりわ け,その根幹をなすのが極低温(約10 mK)における超微弱なマイクロ波信号の増 幅であり,これを可能にしたのが超伝導パラメトリック増幅である.超伝導パラ メトリック増幅器は雑音を重畳することなく無散逸で信号を増幅する優れた汎用 デバイスである.
このような研究背景において,我々はスピンメーザー(誘導放出によるマイクロ 波増幅)を用いることで極めて高い飽和パワーを持ちながらも超低雑音な量子マ イクロ波増幅を実現した.スピンメーザーは半世紀以上前に廃れてしまった古い 研究テーマであるが,当時は実現不可能だった極低温においては極めて有用な 「古くて新しい」量子技術になることを見出した. 本講演では,この極低温環境におけるメーザーに関連した「熱駆動メーザー」を 紹介する.熱駆動メーザーのアイデアは古く,ScovilとSchulz-DuBoisによって 提唱された [Phys. Rev. Lett. 2, 262 (1959)] が,未だ実現には至っていな かった.我々は,ダイヤモンド結晶中の不純物スピンを用いることで極低温にお いて熱駆動メーザー「増幅」を実現した.さらに,デバイスの特性を向上させれ ば熱駆動メーザー「発振」も実現可能なことを示す.
世話人:井原慶彦
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
4.
日時: 令和4年8月25日(木) 14:00-15:00
場所: 北海道大学 理学部 2-211室
共催:第277回エンレイソウの会、物理コロキウム
講演題目: The Role of Valence-Skipping in the Recently Discovered Superconductor In-doped GeTe
講師: Markus Kriener 氏 (RIKEN Center for Emergent Matter Science (CEMS))
要旨: A major target in the field of superconductivity is to identify and understand the mechanisms which control and increase the superconducting transition temperature Tc. About 30 years ago, Varma pointed out the possibility of enhanced superconducting interactions in systems containing valence-skipping elements [1]. One example is In: It skips its 2+ state and usually appears as In1+ or In3+. In GeTe, it replaces divalent Ge giving rise to such a valence instability. GeTe itself is a wellknown multifunctional system (cf., e.g., [2] and References therein). In spite of its semiconducting nature, it exhibits metallic resistivity and superconducts below critical temperatures Tc < 350 mK due to Ge vacancies [3]. When doping In, the superconductivity is quickly suppressed. Upon further increasing the In content, Ge1-xInxTe exhibits a critical doping concentration xc = 0.12 where various properties change concurrently, among them the crystal structure, the nature of the charge carriers, and a several orders-of-magnitude enhancement and subsequent suppression of the resistivity [4]. Most importantly, a new superconducting phase with monotonically increasing Tc emerges for x > xc. Simultaneously, a crossover of the In valence state from 3+ to 1+ is observed. This subtle correlation strongly suggests that the superconducting phase in Ge1-xInxTe is a direct consequence of the valence instability of the In dopant. In this talk, we will present a comprehensive discussion of the characteristic features of this solid solution and propose a model which accounts satisfactorily for all observations.
[1] C. Varma, Phys. Rev. Lett. 61, 2713 (1988).
[2] M. Kriener, T. Nakajima, Y. Kaneko, A. Kikkawa, X. Z. Yu, N. Endo, K. Kato, M. Takata, T.Arima, Y. Tokura, and Y. Taguchi, Sci. Rep. 6, 25748 (2016).
[3] R. Hein et al., Phys. Rev. Lett. 12, 320 (1964).
[4] M. Kriener, M. Sakano, M. Kamitani, M. S. Bahramy, R. Yukawa, K. Horiba, H. Kumigashira,K. Ishizaka, Y. Tokura, and Y. Taguchi, Phys. Rev. Lett. 124, 047002 (2020)
世話人:井原慶彦
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
3.
日時: 2022年6月2日(木) 16:30-18:00
場所: 北海道大学 理学部 2-211室
共催:第275回エンレイソウの会、物理コロキウム
講演題目: Na Cobaltates: from materials to correlations and topology
講師: Henri Alloul 氏 (Laboratoire de Physique des Solides, Universite Paris-Saclay)
要旨:Electronic topology in metallic kagome compounds is under intense scrutiny. I shall present transport experiments in the specific Na cobaltate phase Na2/3CoO2 in which NMR data have revealed that the ordering of the Na differentiates a Co kagome sub-lattice in the triangular CoO2 layers. Hall and magneto-resistance (MR) data under high fields give evidence for the coexistence of light and heavy carriers. At low temperatures, the dominant zero field conductivity is due to light electronic carriers. Its suppression by a B-linear MR, suggests Dirac like quasiparticles. Lifshitz transitions induced at large B and Tunveil the lower mobility carriers. They display a negative B2 MR due to scattering from magnetic moments likely pertaining to a flat band. We underline an analogy with heavy Fermion physics.
世話人:井原慶彦
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
2.
日時:2022年3月10日(木) 16:00-17:00
場所:北海道大学理学部2号館 5-201(ハイブリッド開催 ZOOM)
共催:第274回エンレイソウの会、物理コロキウム
講演題目:外線や太陽光利用のための表界面ナノサイエンス研究
講師:長尾忠昭 氏(物質・材料研究機構)
要旨:近年、光触媒や太陽光集熱材料、波長選択型の赤外線エミッターやセンサ?など、ナノ材料やナノスケールデバイスを用いたエネルギー変換材料の研究が進展し、多くの知見が得られつつある。これらのエネルギー変換現象には紫外可視から赤外帯域における材料の誘電的性質と共に、特定の構造がもつナノ構造表面によって誘起されるプラズモンやフォノンなどの素励起がかかわる場合が多い。近年の合成技術、薄膜成長やリソグラフィー技術の発展によって、ナノスケールにおいて様々な材料の物性を生かしつつ、積極的にその光学的性質や機能を制御することが可能になってきた。また、ナノスケールやサブナノスケールで物質の物性を計測できる計測法もこの四半世紀で各段に進歩しており、材料のナノ物性を踏まえた上での機能開拓研究が可能となってきた。本講演では、薄膜表界面研究とナノ分光計測の基礎研究を中心に紹介し、さらに最近の光エネルギー利用研究、波長制御デバイスなどについても、いくつか具体例を挙げながら、紹介する。具体的には1.表面やナノ構造に生じる赤外帯域の電子励起や光吸収について、2.太陽光をほぼ完全に吸収できるセラミック材料の探索やそのナノ構造における工夫、3.赤外線波長選択型エミッターとセンサーのデバイス開拓などについて、具体的な実験結果や写真をメインにしながら紹介をしたい。
T. Nagao, Physical Review Letters. 97, 116802 (2006).
T. Nagao, et al., Science and Technology of Advanced Materials. 11, 054506(2010).
T. D. Dao, et al., ACS Photonics 2, 964-970 (2015).
T. D. Dao, K. Chen, T. Nagao, RSC Nanoscale, 11, 9508-9517 (2019).
A. T. Doan, et al. Optics Express Vol. 27, Issue 12, pp. A725-A737 (2019)
世話人:柳澤達也
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)
1.
日時:2022年1月27日(木) 17:00-18:00
場所:オンラインZoom開催
共催:第273回エンレイソウの会、物理コロキウム
講演題目: 4f2配位系の多極子自由度による相転移と非フェルミ液体的挙動
講師:鬼丸 孝博 氏(広島大学 大学院先進理工系科学研究科)
要旨:4f2配位のPr3+イオンを含む立方晶カゴ状化合物PrT2X20 (T: 遷移金属,X: Al, Zn, Cd)では,非磁性の基底二重項で活性となる多極子自由度による相転移や重い電子超伝導,さらには非フェルミ液体的挙動などの興味深い物性が現れる [1]。このうちPrIr2Zn20はTQ = 0.11 Kで反強四極子(AFQ)秩序を示し,さらに低温のTc = 0.05 Kで超伝導転移を示す [2]。また,TQ以上の比較的広い温度範囲において,電気抵抗率は上凸の温度変化を示し,比熱は-lnTに依存する。これらのNFL的挙動は,電気四極子と伝導電子の相互作用による2チャンネル近藤格子の形成を示唆する [3]。また,Prを希薄にしたY(Pr)Ir2Zn20では,磁気比熱や電気抵抗率,弾性定数,熱膨張係数のNFL挙動が観測され,単サイトの四極子近藤効果の可能性を示している [4,5]。同様の温度変化を示すNFL的挙動は,同型構造をとるPr希薄系Y(Pr)Co2Zn20とLa(Pr)Ti2Al20の磁気比熱と電気抵抗率にも現れており [6,7],電気四極子と伝導電子の相関が重要であると考えられる。講演では,最近見出された新物質PrNi2Mg20の低温物性や4f3配位をとる同型のNd化合物における磁気秩序とNFL的挙動についても紹介し [8,9],多極子自由度による相転移と非フェルミ液体的挙動に対する体系的な理解と今後の研究の展望について述べる。
[1] T. Onimaru and H. Kusunose, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 082002 (2016).
[2] T. Onimaru et al., Phys. Rev. Lett. 106, 177001 (2011).
[3] A. Tsuruta and K. Miyake, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 114714 (2015).
[4] Y. Yamane et al., Phys. Rev. Lett. 121, 077206 (2018).
[5] T. Yanagisawa et al., Phys. Rev. Lett. 123, 067201 (2019).
[6] Y. Yamane et al., JPS Conf. Proc. 29, 015006 (2020).
[7] S. Asatani et al., JPS Conf. Proc. 30, 011159 (2020).
[8] Y. Kusanose et al., J. Alloys Compd. 894, 162361 (2022).
[9] R. Yamamoto et al., Phys. Rev. B 104, 155112 (2021).
世話人:柳澤達也
(北海道大学大学院理学研究院物理学部門)